環境汚染物質による呼吸器上皮細胞のアポトーシス誘導機構を解析する目的で、肺胞II型上皮細胞の初代培養系を用いて、核DNA損傷に及ぼす重金属の影響について検討した。この核DNA断片化の測定は、BrdU標識核DNAを含む細胞の重金属暴露によりクロマチンより分離した細胞質中のBrdU-標識DNAをモノクロナール抗体を用いたsandwich enzyme immunoassay(ELISA)の原理に基づいて測定した。 ニッケル、カドミウム、水銀の4時間暴露により、肺胞上皮細胞の核DNAの断片化が誘発され、特にニッケルにおいてその作用が最も強いことがわかった。鉛やマンガンは全く核DNA損傷への影響はみられなかった。ところがこれらニッケル、カドミウム、水銀の6時間暴露細胞においては、いずれもこの断片化作用が4時間暴露に比べ、減少していた。特にニッケル暴露では、LDHや^<51>Crの培養上清中への漏出測定による細胞死を測定しても細胞障害作用はほとんどなく、肺胞上皮Type II細胞においては核DNA損傷修復機構の作用発現が損傷後速やかに行われることが示唆された。 またミトコンドリアの代謝活性を指標にして肺胞上皮の細胞活性に及ぼすニッケルの影響をMTT法にて検討すると、著明な阻害がニッケルだけにみられた。現在、透過型電子顕微鏡による重金属暴露細胞の核内クロマチンの凝集は確認されておらず、検討を要している。重金属の中でも特にニッケルは肺胞II型上皮細胞に対し、アポトーシスの検出方法で使用されている核DNAの断片化を促し、またその作用器官として核とミトコンドリアが顕著であるという興味ある新知見が得られた。 以上のことより、重金属に対する肺胞II型上皮細胞の感受性ならびにその細胞毒性発現機構は、重金属の種類により異なることが示唆された。
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