研究概要 |
平成6年の5月から8月にかけて,秋田県内の特別養護老人ホーム1カ所の入所者,老人保健施設3カ所の入所者,老人病院ならびに精神病院3病院の入院患者に対して,第1回目の評価を実施した.対象者の痴呆の程度を検討するために,改訂版・長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を実施した.また,対象者の状態を,身体機能,身辺処理技能(日常生活機能)および社会的行動の合計10項目からならなるパラチェック老人行動評定尺度(PGS)を実施して,把握した.また,平成6年7月から12月にかけて,初回評価と同一の対象者に,2回目のHDS,PGSを実施した(再評価).死亡退院・退所などの対象者も少なくなかったため,老人保健施設1カ所を追加し,上述の検査等を実施した.さらに,平成7年1月から3月にかけて,再度,HDS,PGSを実施した. 収集したデータは個人ベースで326名であったが,評価が初回時か再評価時のいずれか1回のみの者や,初回評価から再評価までの期間が半年間でなかったデータを除いた195名について分析した.この中から,週あたりの作業療法の実施回数が不明だった者を除き,最終分析対象者は111名であった.そのうち,65名が週あたり1回以上の頻度で感覚統合的アプローチを実施していた.また,46名が感覚統合アプローチを含む作業療法を週あたり1回未満しか実施していなかった.84名が作業療法をまったく実施していなかった.この3つの群,つまり高頻度群,低頻度群,未実施群について,PGS得点の初回評価と再評価得点は,高頻度群と未実施群では有意差がみられず,低頻度群では移動の項目で有意に高得点を示した. これらの対象者の中で,痴呆を伴う者は高頻度群で19名,低頻度群で22名であった.高頻度群の非痴呆患者では移動が有意に向上し,痴呆患者では集団交流が有意に低下していた.低頻度群の痴呆患者では排泄が,非痴呆患者でも排泄が低下していたが,非痴呆患者では食事が有意に向上していた. これらのことから,痴呆患者に対する作業療法,特に感覚統合的アプローチは痴呆の進行を予防する上で効果が認められた. また,少数例に6歳児に相当する発達検査を反復して実施し,単一システムデザイン(SSD)によって効果を検討した.この結果では,感覚統合的アプローチが痴呆を改善することが明らかになった.
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