(1)本年度までに、ヒトの自律神経機能に及ぼす各種有害因子として、鉛、有機溶剤(ノルマルヘキサン、キシレン、トルエン等)、トルエン、スチレン、アルコール、振動工具作業、VDT作業の検討を行なった。このうち、VDT作業を除く全ての因子の暴露によって副交感神経機能低下が起こることを明らかにした。さらに、鉛およびアルコールでは交感神経機能低下も引き起こすことが推定された。VDT作業では有意な自律(副交感および交感)神経影響は認められなかった。 (2)文献検索に基づいて有害因子による自律神経影響の研究をレビューし、以下の点が明らかになった。(1)これまでに自律神経機能への影響が検討されている産業・環境保健領域の有害因子とし、上述したもの以外にトリクロロエチレン、二硫化炭素、混合農薬があった。トリクロロエチレンの長期暴露者の研究では有意な所見が見られなかったが、二硫化炭素や混合農薬の暴露では副交感神経機能低下が見られた。(2)このレビューの結果、副交感神経機能は交感神経機能と比べ産業・環境有害因子の影響を受け易いことが推定された。また、副交感神経機能の低下は心臓性突然死や冠動脈疾患の発生率と強く関連すること、さらに、我々が使用している心電図RR間隔変動(CV_<RR>)指標の測定は心血管系疾患による死亡率の有力なpredictorとなりうることが報告されているので、副交感神経機能障害を引き起こす畏れのある有害因子の発見に今後一層努める必要があることが示された。(3)鉛、有機溶剤、振動工具作業では中枢および末梢神経影響に関する論文が比較的多く報告されており、これらのデータに照すと自律神経の障害部位は鉛では交感、副交感(迷走)神経そのもの、有機溶剤と振動工具作業では脳幹部と推定された。
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