本研究は大腸がん検診による大腸がん死亡率の減少、すなわち検診の有効性に関する評価(疫学的評価)を行なうことを主な目的とし、その検討にあたっては、モデル地区(長野県朝日村)において昭和57年より継続している大腸がん検診の成績を活用した。まず、モデル地区の大腸がん検診の成績を総括し、受診率・要精検率・精検受診率・がん発見率・発見がん中の早期がんの割合などの指標を時系列的に算定し、検診評価のための基礎データの集積を図った。次に、保健医療に関するモデル地区の独自資料、死亡票、病院カルテなどを通して、モデル地区における大腸がん死亡者の全員を確認した。以上の基礎データをもとに、標準化死亡比を用いてモデル地区の大腸がん死亡率の推移を検討した。すなわち、大腸がん検診の開始前と開始後、大腸がん検診の前期と後期の比較を行なった。また、モデル地区の大腸がん死亡者全員を症例とし、同地域の居住者で症例と性・年齢などをマッチさせた対照を選定して、症例対照研究の手法による検診効果の検討を行なった。効果の測定は、症例と対照のそれぞれについて検診受診の有無を遡及的に確認し、Matched pair analysisによりオッズ比を算出して評価した。さらに、自然的・社会的条件を考慮した対照地区(大腸がん検診の低受診率地域)を選定し、モデル地区と対照地区の大腸がん死亡率の推移を比較検討した。標準化死亡比を用いた大腸がん死亡率減少効果の検討では、大腸がん検診の開始前と開始後、大腸がん検診の前期と後期でそれぞれ大腸がん死亡率に有意な差がみられ、本検診の有効性が確認された。しかし、症例対照研究やモデル地区と対照地区の比較研究では十分な結果が得られなかったので、今後引き続き検討する予定である。同時に、本研究の見直しを通して新たな研究課題を策定しその予備的検討に着手する予定である。
|