研究概要 |
卵巣癌罹患率が白人で高く日本人では低いこと、米国に移住した日本人の卵巣癌罹患率が白人と在日日本人の中間になることが示されている。このような卵巣癌罹患率の地域間格差と関連する要因を明らかにすることを目的とした。1994年10月から1996年1月までに久留米大学医学部附属病院か佐賀医科大学附属病院で卵巣癌と診断された者で、調査時より過去の3年以内に卵巣癌と病理組織診断された者78人を症例群とした。同じ期間内に症例の住所と同じ地域ブロックに含まれる市町村で行われる健診を受診した日本人で、各症例と±5歳以内に年齢がマッチングしていて、悪性腫瘍や卵巣疾患の既往歴がない者346人を対照群とした。症例群と対照群に対して、乳製品摂取などの食習慣、飲酒、喫煙、受動喫煙、生殖歴、授乳、避妊、月経、ホルモン剤服用、その他の既往歴、家族歴、職業、身長、体重などを調査した。症例対照研究のデータをコンディショナルロジスティック回帰分析法によって解析した。その結果、卵巣癌症例群は対照群よりも母親か姉妹に卵巣癌に罹患した者がいる割合が有意に多く(オッズ比、OR=2.85,95%信頼区間、95%CI 1.01-8.08)、最も重かった頃の体重や肥満度(BMI)が重くなるにつれて卵巣癌のリスクが有意に高くなる傾向があり(体重のtrend,OR=1.31,95%CI 1.06-1.63、肥満度のtrend,OR=1.30,95%CI 1.06-1.60)、妊娠数や出産数が多くなるにつれて卵巣癌のリスクが有意に低くなる傾向があり(妊娠数のtrend,OR=0.67,95%CI 0.51-0.89、出産数のtrend,OR=0.57,95%CI 0.39-0.83)、経口避妊薬を服用したことがある者が有意に少なかった(0.05,ORは計算不能)。食生活が豊かになり、過剰な体重を有する者が増加してきたことが、最近の卵巣癌罹患率の上昇と関係している可能性が示唆された。また、このことが日本人の卵巣癌罹患率が米国の白人よりも低いことをも説明しているかもしれない、と考えられた。
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