研究概要 |
従来の疫学調査で使われてきた喫煙曝露量は、アンケートによる喫煙情報から推定されたものであり、喫煙曝露量を表わす生体指標としては、きわめて不正確であいまいなものである。本研究は、これに代わる生体指標として、生体内半滅期の長いニコチンの中間代謝産物であるニコチン(CN)の簡便、迅速、鋭敏でかつ再現性の高い、これからの疫学調査に容易に適用しうる測定法の確立を目的として行われた。 開発されたマイクロタイタ-プレートを用いた酵素抗体法(ELISA)によるCN定量法は、既知濃度のCN-ウシチログロブリン複合体をプレートに固定、尿検体または検量線作成のため標準溶液としての濃度既知のCN溶液を添加、ウサギで作成した特異的抗CN抗血清希釈液の一定量を加えて反応させ、これにペルオキシダーゼ標識ロバ抗ウサギIgG抗体を添加、基質のABTSで発色、415nmと475nmの吸光度を測定、検体中のCN量を算定するものである。本法は、検出限界1ng、測定可能範囲1ng〜4ugであり、一度に100検体を処理しうるもので、RIA法やHPLC法のもつ煩雑さは一切伴わない。 某百貨店従業員301名中non-smoker165,passive-smoker48,smoker88の3群について尿中CNを定量、濃度分布の中央値[25%,75%tile]ng/mlは、non-smoker、passive-smoker、smokerで各々10[25,28]、95[40、145]、3000[1300、5000]ng/mlとなり、従来のアンケート法では不可能であったタバコ煙曝露量の正確な算定は勿論、non-smokerと認識している群の半数以上がpassive-smoker群の程度までタバコ煙に曝露されている実態が示され、今後の職場での正しい分煙効果の評価や分煙指導のあり方などにおいて客観的・絶対的な指標を与えるものと思われる。
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