当初の予定通り、研究計画は全て順調に終了した。前年度から引き続き行った本人ないし遺族に対する面接調査等による職歴確認作業から、対象とした造船所において創設以来の1947年から調査期間として設定した1971年末までに、ボイラー関連作業職に採用された者は190名(ボイラー修理工119名、断熱工70名、職種不明1名)であることが判明した。このうち95.8%に相当する182名の消息を確認し、平成7年4月に所轄地方法務局の認容を得て、戸籍等によりこれらの者の生死状況を確認するとともに、死亡者97名については全員の死亡診断書記載事項証明書を入手した。原死因は死亡診断書からICD10の定める原死因の選択手順に従い判定し、死因別SMRは国勢調査年における全国の日本人男性の5歳年齢階級別死亡率と、就労開始時から観察終了時点(死亡者は死亡時点、生存者は1995年末)までの暦年別、5歳年齢階級別人年とから算出するとともに、その信頼区間(CI)をポアソン分布に従い求めた。追跡できたボイラー修理工(B工)114名の観察人年は3918人年で、断熱工(L工)68名の観察人年は2229人年であった。両職種とも全死因、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患のSMRはほぼ1であり、過剰死亡は認められなかった。しかし、個別疾患の死因検討では、B工の場合、石綿肺、塵肺、悪性胸膜中皮腫による死亡が観察されたことに加え、肺癌による過剰死亡は全体で検討する限り認められなかったものの、15年未満の短期就労群の肺癌SMRは1.1であったのに対し、15年以上の長期就労群は2.4(90%CI:1.1-6.1)と全国平均に比べ高い傾向が認められた。一方、L工では石綿肺の死亡に加え、肺癌のSMRが2.9(95%CI:1.2-7.1)と全国平均に比べ有意に高い結果がえられた。以上のことから、石綿曝露により肺癌等の過剰死亡が認められることが明らかとなった。
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