研究概要 |
1992年に米国のEnvironmental Protecti on Agency(EPA)は“Respiratory Health Effects of Passive Smoking:Lung Cancer and Other Disorders"という報告書を発行した。このEPA報告書での手法に、(1)95%信頼限界ではなく90%信頼限界が使用されていること、(2)publication biasが考慮されていないこと、などの問題点が指摘されている。そこで、上記のことを考慮して、受動喫煙(environmental tobacco smoke、ETS)と肺癌罹患(死亡)との関係の疫学研究のodds比でEPA報告書において求めたmeta-analysisによる統合odds比の再計算を試みた。その結果、全世界の統合odds比とその95%信頼限界は1.28(1.13,1.46)であった。しかし、各疫学研究のodds比の値の均質性が崩壊(統計学的有意)したため、DerSimonianの修正法によって計算を行った。このことは、この疫学研究領域の対象国(地域)で、その社会経済的状況や職場住宅環境が非常に異質なために、無理をしてこの計算をしたことを示している。したがって、この全世界の値をもって、全世界でETSが肺癌死亡の原因であると証明されたとは言い難い。この研究領域においてアメリカでの疫学研究論文数のみが2桁であったので、moment法による間接的にpublication biasを除去するSugitaの方法で、アメリカの統合odds比とその95%信頼限界を1.11(0.97,1.28)と計算した。また、最近アメリカで出版されたこの研究領域の疫学論文2編の値を追加して計算(DerSimonianの修正法使用)しても、その値は1.10(0.97,1.26)となった。このように別の2つの方法で非常に近い値が得られたことは、今後アメリカでこの研究領域の疫学論文が多数出版されても、アメリカの統合odds比の値が1.1前後に収束する可能性を示している。このように、この値が統計学的に有意でなかったこともって直ちに、アメリカにおてETSが肺癌死亡の原因でないと証明されたとは言い難い。要するに、ETSと肺癌死亡の関係が非常に弱い微妙な関係であることを強調したい。
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