研究概要 |
頭部外傷に起因する神経線維損傷の早期変化を明らかにするため,平成7年度は免疫組織化学によって種々の軸策及び髄鞘構成成分を染色し,各々の有用性について検討を加えた。 まず,法医解剖例9例の脳梁標本を用い,neuron-specific enolase(NSE),neurofilament(NF)の各subunit,mitochondria(MC),Alzheimer precursor protein(APP)等に対する抗体を用い軸策を染色した。その結果,軸索に対する各抗体の染色性は軸索変化の有無によって違うことがわかった。すなわち,正常・異常を問わず軸索が殆ど染色されないもの(NF-L,NF-npH),逆に変化の有無を問わず全ての軸索が染色されるもの(NF-pH),変化が進行してretraction ball(RB)と呼ばれる球状の塊になった軸索のみ染まるもの(MC),RBやその早期変化とされる腫大軸索のみが染まり正常軸索が染色されないもの(NSE,NF-M,APP)が存在した。従って,損傷による軸索の早期変化を検索するためには,早期からの変化を検出するNSE,NF-M,APPが有用であることが示唆された。 そこでこれらの3つのうち染色像が最も鮮明と思われたNSEを選び,さらに例数を増やし(35例)検討を進めた。すると頭部外傷受傷後1時間以上生存した例の大部分では,腫大軸索とRBが多数検出され,頭部外傷を欠く例では殆ど検出されなかった。従ってNSE染色によれば早期死亡例における軸索変化を検出できるものと考える。 一方,頭部外傷に起因する髄鞘変化を明らかにするためにmyelin basic proteinやproteolipid proteinに対する抗体を用いて髄鞘染色標本を作製して検討したところ,両染色とも2日以上生存した例ではmyelin globoidと呼ばれる髄鞘成分の球状塊を検出した。軸索所見に加えてこれら髄鞘所見を検討することにより,頭部外傷の受傷時期をより正確に推定できるものと考える。
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