研究概要 |
これまでに27種類のベンゾジアゼピン系薬物,17種類のフェノチアジン系薬物,6種類のブチロフェノン系薬物について,高速液体クロマトグラフィー/高速原子衝撃質量分析法により,まず,ポジティブモードで標品の分析を行った。その結果,1種類のベンゾジアゼピンで擬分子イオンが検出されなかった以外,他のすべての薬物で主要なピークとなる擬分子イオンと適当量のフラグメントイオンを含む良好なマススペクトルが得られた。マススペクトルの検出限界は大部分の薬物で10ng以下となり,治療レベルで分析可能なことが示唆された。 高速原子衝撃質量分析法は安定同位体を内部標準としない限り半定量の域を脱しえなかったが,本研究で用いているキャピラリー高速液体クロマトグラフィーによるUV分析が向精神薬の定量に有用なことが示唆された。 各薬物の抽出法について,ベンゾジアゼピンはボンドエルートC^<18>,フェノチアジンとブチロフェノンはボンドエルートC^2による固相抽出が一般に有効であったが,薬物や試料によって溶出溶媒の組成を調整する必要があり,場合によっては揮発性の低い溶媒を用いざるをえなかった。しかし,真空ポンプで引く冷却トラップを接続させた遠心式濃縮機を用いることにより,揮発性の低い溶出溶媒でも比較的短時間で蒸発可能であった。 向精神薬を服用中の患者から採取した血清の提供を受け,上記方法により抽出,分析したところ,ベンゾジアゼピンとフェノチアジンの一部について未変化体が確実に同定されたほか,代謝物も同時に検出された。代謝物の同時測定により薬物の服用が確実に証明されるだけでなく,服用時期の推定も可能となることが期待される。 今後,ネガティブモードの分析,各薬物の抽出法の確立,患者血清の例数の増加,剖検例の試料の分析,キャピラリー高速液体クロマトグラフィーによる定量分析の確立などを目差すことにより本研究を完成させたい。
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