単離予定の候補遺伝子の異常を臨床検体でスクリーニングするため、生検標本のような少量の検体からDNAとRNAを同時に抽出し、蛍光標識PCR法を用いてSSCP法とPCR産物定量法を改良し、簡便かつ迅速な遺伝子変化解析法を確立した。そして、実験系の確認と収集した臨床検体の質の評価、既知の遺伝子の突然変異や発現変化と転移能との関連の評価を行った。先ず、DCC遺伝子とp53遺伝子の欠失を収集した大腸がんのDNAで調べた。11例中10例で少なくともどちらかの遺伝子異常を認め、過去に我々が得た結果と同様であり、実験系は有効で検体の質も問題がないと思われた。次に、進行大腸がんで欠失が多い第8染色体上に位置しているDNA polymerase β遺伝子について、mRNAの異常の検索を行った。欧米では進行大腸がんの8割以上で異常が検出されているが、我々の分析では原発腫瘍、肝転移巣、培養細胞株のいずれにも異常を認めず、結果が異なっていた。また、染色体上DCC遺伝子の近傍に位置するSmad4遺伝子と、転移関連遺伝子として知られるKAI1遺伝子とCAR遺伝子の発現変化も検討した。大腸腺腫12例、大腸がん原発腫瘍38例、肝転移巣10例、大腸がん細胞株7例で、内部標準としてβ-actin遺伝子を用いて各々の遺伝子発現を定量した。その結果、Smad4の発現低下とCARの発現増加は大腸がんの進展と有意に相関した。KAI1では有意な相関はなかったが、肝転移巣で発現増加群と低下群の二つに分かれていた。さらに、同一患者から得た原発腫瘍と肝転移巣からの細胞株樹立も現在進行中で、これまでに肝転移巣由来の細胞株を2株樹立した。腫瘍組織と樹立した細胞株から核酸を抽出し、蛍光標識法を用いたAP-PCR法とジーンディスプレイ法で、転移能獲得を規定する遺伝子の単離について試みている。今後も候補遺伝子の単離とその異常のスクリーニングについて、当該研究期間の実績をもとにして推進していく予定である。
|