研究概要 |
慢性膵炎の発病への素因,発生機序の解明を目的として,遺伝的な因子の関連が深いと考えられる家族性慢性膵炎を対象に検討し次の結果を得た. 1.文献,アンケート調査により,わが国の3例以上発症した家族性慢性膵炎20家系74例を集計しその臨床像を分析した.遺伝性慢性膵炎の一般的な基準,2世代以上3例以上では16家系61例となった.最近診断された例の多くは若年発症であるが,教室例でも二卵性双生児,石灰化兄弟例など2例に留まる家系も多く,家系が小さい日本では新たな基準が必要と思われた.今回の検討より10歳代での発症で2世代にわたれば,2例でも遺伝性慢性膵炎とすることは適当と考えられた. 2.膵に急性炎症が引き起こされ易い素因,炎症が持続し慢性炎症,特に線維化を生じる因子は多くのものが関与すると思われる.われわれは膵炎発生に関する因子の解析に努めた.その方法の一つとしわれわれが経過を観察している家族性慢性膵炎を対象に,膵炎発症に関係する可能性のある遺伝子異常の有無について昨年度に引き続き検討した.8例の発症者を認めたビック家系で膵石灰化例の父親,非石灰化例の長男,非発症者の長女および健常者,さらに今年度は飲酒習慣はあるが二卵性双生児の高齢者で膵石灰化まで経過を追えた例を対象に検討した.これまでと同様に末梢リンパ球より抽出したゲノムDNAでヒトPSTl,ヒトreglα,ヒトreglβ遺伝子の変異の有無を,サザンブロック法によるRFLP解析,およびPCR法により当該遺伝子のコード域を増幅し,塩基配列を決定することによる解析を進めた.しかし,現時点では検討した遺伝子および検索例では異常を発見できていない.
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