研究概要 |
ヒトコレステロール胆石症における肝コレステロール代謝異常を,その生合成及び異化の各段階において詳細に検討した.方法論に関しては,我々が開発したガスクロマトグラフ-質量分析計を用いたisotope-dilution法にて酵素活性を測定した.その結果,コレステロール胆石症患者では健常者に比して胆汁中コレステロール飽和度が有意に上昇しているにもかかわらず,肝コレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素活性は健常者に比して有意に低値であった.またミクロソーム中のコレステロール濃度は,胆石症患者において有意に高値であった.更に肝HMG-CoAreductase活性に影響を与えると推測されるステロール7α-水酸化酵素ならびに肝サイトソ-ル中エストロゲン受容体濃度は,胆石症患者ではそれぞれ有意に活性値及び濃度の低下が認められた.一方,コレステロール異化の点では,胆汁酸合成の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素は胆石症患者と健常者の間では,その活性値には有意の差を認めなかった.しかしながら,胆石症患者において胆嚢収縮機能が低下している例では,胆汁中デオキシコール酸の増加に比例して同酵素活性値も高値であった.各酵素に対するmRNAの発現量を測定したところ,それぞれの活性値と良好な相関を示し,健常者に比して胆石症患者においてはHMG-CoA還元酵素のmRNA量は有意に低下しており,またコレステロール7α-水酸化酵素のmRNA量は胆嚢機能低下例で有意に増加していた.以上の結果を総括すると,コレステロール胆石症患者におけるコレステロール過飽和胆汁の生成機序には,(1)肝におけるコレステロール生合成は抑制されており,内因性コレステロールよりもむしろ食事性等の外因性コレステロールの胆汁中への過分泌が重要であると考えられた.(2)胆汁酸代謝においては,胆嚢収縮機能が低下例では胆嚢内胆汁酸プールの隔離により特に循環胆汁酸プールの減少が生じていると考えられた.
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