研究概要 |
B型肝炎ウイルスキャリアには無症候性キャリアから慢性肝炎、肝硬変、肝癌まで様々な病態がみられる。我々は各種B型肝炎におけるpre-C及びcore領域の遺伝子変異が肝炎の活動性と関連することを報告してきた。しかしながらcore、pre-C変異の解析のみでB型肝炎の各種病態について完全に解明しうる訳では無い。最近B型肝炎のpre-C領域の近傍にウイルスmRNAの転写を調節する領域が存在し、ウイルスの複製に必要なpregenome RNAやcore蛋白のmRNAの産生を調節していることが明かにされた。このpromotorやenhancer領域遺伝子に変異が生じれば転写活性が変化し、ウイルス量やcore蛋白の産生量が変化すると考えられる。すなわちenhancer,promotor領域の変異及びその転写活性を測定することで、ウイルスの増殖能や肝内でのウイルスcore蛋白産生能との関連を解明しうる。 本年度の研究ではまず各種B型肝炎疾患におけるB型肝炎ウイルスの転写調節領域における変異の有無をPCR法-直接塩基配列決定法により検索した。まずB型肝炎患者血清のうち無症候性キャリア10検体、慢性持続性肝炎患者血清5検体、慢性活動性肝炎患者血清10検体、慢性肝炎急性増悪患者血清10検体、急性肝炎患者血清10検体、B型劇症患者血清10検体を選択し、ウイルスDNAを抽出した。さらにこれらの検体を用いcore mRNAおよびpregenome RNAの転写調節領域をPCR法にて増幅した。これらの増幅DNAにつき、X領域の開始部からcore領域の終わりまで直接塩基配列決定法にて塩基配列を決定し変異の有無を解析し、無症候性キャリアや急性肝炎例ではこれらの領域に変異は認められないが、慢性肝炎や劇症肝炎例では転写調節領域に変異が認められることを明かにした。
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