研究概要 |
1,肝細胞膜に存在する増殖促進因子を可溶化する方法を確立した。この抽出分画を分析したところ、数十種の蛋白を含む粗精製分画であることが判明した。そこで、カラム操作により因子の精製を行なったがこの過程は困難を極めた。その理由は操作中に生じる非特異的な蛋白喪失による分画の活性低下と考えられた。そこで、粗精製分画を用いて家兎を免疫し、本因子に対応する抗体の作製を試みた。得られた抗血清は二十数種の膜蛋白を認識する非特異なものであったが、ラット肝細胞のDNA合成を抑制したことから、本因子を認識する可能性が示唆された。更に本抗血清はラット培養肝細胞を立方状の生体内肝細胞に類似した形態に誘導することが判明した。これらの因子に特異的な抗体を得るため、モノクローナル抗体作製を開始した。現在のところ肝細胞膜の増殖促進作用を抑制する抗体は得られていない。しかし、培養肝細胞の形態変化をもたらす抗体を産生するクローンの発生が認められた。惜しくもこのクローンは培養の過程で死滅したが、モノクローナル抗体により同様な肝細胞の形態変化が生じたことは、単一の蛋白が肝細胞の形態形成に大きな役割を果たすことを示唆する。今後も、同様の抗体の作製を続ける予定である。2,肝細胞膜に存在する増殖促進因子は、TGF-βによる肝細胞の増殖抑制をほぼ完全に軽減した。TGF-βの増殖抑制の作用機序はG_1期後期と推定されている。本因子は、当初からS期の10時間前のG_1期後期と推定されていたが、この仮説はTGF-βの作用との拮抗により支持された。 3,肝細胞の膜蛋白であるTGF-αの肝再生における意義を臨床例での血中濃度の変動、in vivo及びin vitro双方の動物実験により検討した。TGF-αの血中濃度は肝再生の良い指標と考えられ、肝内TGF-α量もこれとよく相関した。また、TGF-αはautocrineの機序により、肝細胞増殖に促進的に働くものと推定された。
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