私共は、内視鏡的に採取した膵癌患者の膵液で、k-ras codon 12の点突然変異が高率かつ特異的に起こっていることを見い出した。しかし、どのような症例に対し膵液を採取し膵癌の早期診断に応用すべきかについては不明である。そこで、膵癌および不定愁訴で来院した患者を対象に膵癌の最も鋭敏な画像診断である超音波内視鏡(EUS)を行い、膵液採取患者をスクリーニングした。 1.K-ras codon 12の点突然変異の検出には、感度の高いmodified primerによるPCR-PFLP法を主として用いた。膵癌33例の検討では、26例(79%)で同変異が検出された。EUSでは、全例で尾側膵管の拡張蛇行をともなう低エコー腫瘤として描出された。一方、慢性膵炎では、同変異は41例中3例(7%)に検出された。3例中1例はEUSで明らかな低エコー腫瘤を示し手術を施行したが、腫瘤形成性慢性膵炎であった。また、1例では局所的な膵管の蛇行が認められ、現在膵癌の初期像の可能性も考慮し、厳重に経過を観察している。なお、不定愁訴患者では、今のところ変異陽性例はいない。 2.膵癌症例で、腫瘍の大きさやその占拠部位との関連を検討したが、最大径2cm以下の小さいものでも変異陽性例があり、腫瘍の大きさやその占拠部位との間には一定の関連は認められなかった。 3.膵癌症例で、膵液細胞診の陽性率と変異検出率を比較した。細胞診では31%が陽性と判定されたのに対し、K-ras変異は75%で陽性であり、K-ras変異の検出は膵癌の診断に有用であった。 特異性を上げるため、MASA法を用いて検討した。膵癌では5例中4例でK-ras codon 12の点突然変異が検出されたの対し、慢性膵炎では、5例全例で同変異は認められなかった。 今後不定愁訴患者を増やし、どのようなEUS上の形態異常が膵癌および膵障害と関連しているのかを検索し、早期膵癌のEUS像の特徴とその診断能を明らかにする予定である。
|