慢性肝疾患の究極的な治療目的のひとつに肝線維化抑制と肝再生が挙げられるが、現在まで有効な治療法は確立されていない。申請者は、レチノイド拮抗剤を用いた肝線維化の制御を目的とし研究を進めてきた。平成6年度までに得られた研究の成果は以下の如くである。 1)レチノイド拮抗剤を治療目的で用いる理論的根拠として、レチノイド(レチノイン酸)の作用を、特に、最も強力なfibrogenic cytokineであるtransforming growth factor(TGF)-βの放出・活性化を中心に詳細に検討した。その結果、レチノイン酸は伊東細胞からの2相性のTGF-β放出刺激作用を有し、第1相は細胞周囲マトリックスからのTGF-βの放出、第2相は放出されたTGF-βがautocrine経路を介して伊東細胞でのTGF-β自身の合成を亢進させることによるものであることを明らかにした。一方、レチノイン酸はこのTGF-β誘導を介して、伊東細胞でのコラーゲン合成亢進、コラゲナーゼ活性の抑制、また、肝実質細胞からの肝特異蛋白(アルブミンなど)の分泌の抑制といった肝病態を増悪させる作用を有することも明らかとなった。 2)このようなレチノイン酸の作用は、plasminogen activatorの誘導を介した、プラスミンの活性化によることが明らかとなった。そこで、各種プラスミン阻害剤を用い、TGF-βの活性化の制御を試み、いくつかの有望な化合物を発見した。 3)四塩化炭素に代表されるモデルより、ヒトに近い肝硬変モデルの作製を試み、lipid A誘導体を用いた肝再生不全+肝線維化マウスモデルの開発に取り組んでいる。このモデルではTGF-βの発現が遷延持続していることを明らかにした。 今後は、既に開発しているレチノイド拮抗剤に加え、プラスミン阻害剤を用いた、動物モデルでの検討を行う予定である。
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