バソプレシンの腸管における水・電解質のホメオスターシスの維持への関与を明らかにするため、大腸粘膜イオン輸送に対するバソプレシンの作用を電気生理学的に検討し、その細胞内情報伝達機構について検討した。モルモット遠位大腸粘膜をユッシング型のチェンバーを用いて、大腸粘膜における能動輸送へのバソプレシンの効果を検討した。漿膜側ブメタニド存在下(カリウムとクロライド分泌抑制下)で電流成分(アミロリド感受性起電性ナトリウム吸収)はバソプレシンにより濃度依存性に抑制され、起電性ナトリウム吸収を阻害すると考えられた。次に、あらかじめ粘膜側アミロリド存在下(起電性ナトリウム吸収を阻害下)では、バソプレシンは比較的低濃度で短絡電流をマイナス側へ、高濃度では短絡電流をプラス側へ変化させた。マイナス側への電流変化は粘膜側高カリウム液で消失し、カリウムの分泌によると考えられた。プラス側への変化はクロライドチャンネルブロッカーにより抑制され、クロライドの分泌と考えられた。これらの変化はすべてバソプレシンV1レセプター拮抗剤で抑制された。バソプレシンと細胞内カルシウムの関わりを明らかにするために陰窩細胞と表層上皮細胞においてバソプレシンが細胞内カルシウム濃度を変化させうるか、カルシウム感受性蛍光色素を用いて検討した。バソプレシンにより細胞内カルシウム濃度は濃度依存的に上昇がみられこのカルシウム濃度変化はバソプレシンV1レセプター拮抗剤で抑制された。バソプレシンはモルモット遠位大腸粘膜においてV1レセプターを介してナトリウム吸収抑制、カリウムとクロライドの分泌刺激を起こすと考えられた。バソプレシンのV1レセプター刺激により大腸粘膜上皮細胞の細胞内カルシウム濃度は上昇し、バソプレシンは細胞内カルシウムイオンをセカンドメッセンジャーとして大腸粘膜イオン輸送へ作用していると考えられた。
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