研究概要 |
HCVはその粒子形態が不明なまま,ウイルス遺伝子がクローニングされ,その全塩基配列も決定されたが,HCV粒子そのものの形態は謎であった。 本研究においては,C型肝炎患者血漿のショ糖密度勾配遠心分画試料中のウイルス様粒子の検出を行い,そこには多形性のウイルス様粒子が存在することを認めた。このウイルス様粒子を含む試料をHCV粒子の探索対象として,抗HCVE1抗体を用いた金コロイド免疫電顕法を行って,この抗体と特異的に結合したHCV粒子を可視化することに成功した。そして,これによって識別・同定されたHCV粒子は,長さ約6nmの繊細なスパイク様突起を有する直径55〜65nmの球形粒子であることを報告した。その後,抗HCVE2/NS1抗体を用いて,上述の形態のウイルス粒子がこの抗体とも特異的に結合することを確認し,さらに,抗HCVE1抗体とE2/NS1抗体とを用いた重染色法によって,このウイルス粒子表面にE1蛋白質とE2/NS1蛋白質の抗原活性が共に存在することを免疫電顕的に可視化し,これら2つの蛋白質がHCVのエンベロープ構成蛋白質となっていることを超微形態学的に証明した。 この研究過程で,C型肝炎患者血中には抗HCVエンベロープ抗体とは結合しない多形性のウイルス様粒子が共存することが明らかとなった。このような粒子は,非C型肝炎患者血中にも高率に検出され,トランスアミナーゼ値の異常と有意に相関していたことから,このウイルス様粒子が肝障害と関連している可能性が示唆された。そこで,これらの多形性のウイルス様粒子を含有する血漿中に,第7番目のヒト肝炎候補ウイルスであるGBV-Cの核酸が存在するか否かについて検討したが,GBV-C-RNAは検出されなかった。現在までのところ,この多形性のウイルス様粒子の核酸レベルでの特定には成功していないが,学術上,その本態と病因的意義を解明することは,ひきつづき行われるべき研究課題であると思われた。
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