研究概要 |
大腸癌の前癌状態を組織化学的に同定するために、大腸炎の実験モデルを用いて癌遺伝子の発現,神経性体液性の面から検討するのが本研究の目的であり、平成6年度は大腸モデルの作成と腫瘍性病変の発生の病理学的検索のための研究計画及び研究方法に基づいて実験を行い以下の成績を得た。 1.2% Dextran sulfateのNa塩をラットに投与して慢性潰瘍性大腸炎類似モデルを作成した。2.DSS投与12週のラットの大腸炎粘膜には腫瘍性病変やいわゆる前癌状態とされるdysplasiaは認めないが、炎症性の偽ポリ-プ病変を認めた。3.DSS投与6ケ月の大腸炎粘膜には高分化型の腺癌の発生を認め、その浸潤の程度は粘膜内に留まるいわゆる粘膜内癌であった。これの詳細な病理学,組織化学,癌遺伝子の検索は7年度に行う予定である。4.大腸炎の大腸壁内および門脈血中のproinflammatory mediatorであり、neurogenic inflammationを発生させる体液性神経性因子substance PとそのmRNAを測定したところそれらはいずれも対照ラットに比べて推計学的に有意を高値を示した。5.Inflammatory mediatorsのcytokinesであるInterleukin-1 αおよびInterleukin-8とそれぞれのmRNAを測定したところそれらはいずれも有意に増量していた。6.4,5のそれぞれのOverexpressionは大腸壁の炎症細胞浸潤の程度と大腸炎の活動期(Myoperoxidase活性で評価)とほぼ平行していた。 (まとめ)ラットにDSSを投与して作成した大腸炎モデルにおいて、DSSの3カ月までは癌の発生を認めずまた前癌状態発生の所見にも乏しいことが判明した。しかし、DSS投与を6ケ月の長時間にするとDSSを投与したラットの約30%に腫瘍性病変の発生することが分かった。大腸壁内の炎症発生の機序についてはSubstance P,検索したcytokinesのうちのIL-1α,IL-8のmRNAのOverexpressionを認め、DSS投与によって発生する炎症の機序には遺伝子のレベルでこれらのmediatorsの関与していることが示唆された。
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