研究概要 |
大腸癌の前癌状態を組織化学的に同定するために、ラット大腸炎モデルを用いて癌遺伝子の発現、神経性体液性、cytokinesの面から検討するのが本研究の目的であり、平成5年度はその準備段階として実験モデルの作成に、平成6年度はそのモデルの作成と腫瘍性病変の発生と病理学的検索を行い、平成7年度は前癌状態を発見する手段としての組織化学的な手法の有用性の検討、腫瘍の癌遺伝子、大腸癌発生の背景因子として重要である炎症発生に関与すると考えられるcytokines,neurogenic inflammatory factorであるSubstance PのそれぞれのmRNAの変化を検索した。研究実績は以下のとおりである。 1.前癌状態と推定された粘液部位の組織化学的に評価した粘液(HID-AB,PAS,Lectin染色陽性の粘液)反応はその周囲の粘膜のそれと大差なく両部位での粘液組成の化学性質に変化を認めなかった。また、大腸上皮の前癌状態を示すといわれるUlex europeus agglutinin結合をも組織化学的に検索したが大腸炎の粘膜と前癌状態の粘膜(Dysplasia)との間に結合反応に有意の差を認めなかった。これらの事実から本モデルにおいては全大腸壁に炎症性変化の存在することがこれらの方法では前癌状態と区別することが困難であることを明らかに出来た。 2.癌細胞のc-myc,TGF α,TGF βの発現を免疫組織化学的に検索したがこれらの発現はいずれも弱いために意味のある判定が困難であった。 3.大腸壁のcytokines,IL-1α,TNF αの各々のmRNAは過剰に発現される傾向にあり、それぞれの組織での含量も有意に増加していた。Substance P mRNAの発現は抑制された状態にあった。 これらの成績から大腸癌発生の背景として炎症の存在の重要性と炎症発生の機序にcytokines,Substance Pの各遺伝子の関与を明らかにした。
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