本研究では、ラット小腸陰窩細胞より確立されたIEC-6を用いて、in vitroにおける小腸細胞の増殖と分化についての検討を中心に研究を進めた。IEC-6細胞の増殖については、表皮増殖因子(EGF)、インスリン、および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)とインターロイキンならびにマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の作用について検討した。最も強力な増殖作用を示したEGFの増殖シグナルについては、細胞内タンパク質のチロシンリン酸化と細胞内遊離カルシウム濃度の変化について検討し報告した。 さらに、本研究では、吸収上皮に発現するアルカリフォスファターゼとスクラーゼの誘導を指標として、TGF-βとレチノイン酸によるIEC-6細胞の分化の検討も行った。IEC-6細胞は、RAR-αとγレセプターを発現していた。低血清培地で培養したIEC-6細胞にレチノイン酸を添加すると、RAR-αのmRNA量は減少するのに対して、RAR-γmRNAは明らかにその発現量を増加した。RAR-βは、レチノイン酸の添加に関わらずそのmRNAは検出できなかった。レチノイン酸はアルカリフォスファターゼとスクラーゼを誘導した。これら酵素の誘導は、ノーザンブロット法ならびにウエスタンブロット法によりそれぞれのmRNAと酵素蛋白質を解析して確認した。一方、TGF-βは、スクラーゼのみ誘導した。これらの結果より、レチノイン酸は、TGF-βと異なる経路でIEC-6細胞の分化の誘導を引き起こすことが示唆され、その作用には、RAR-γが関与する可能性が示唆された。本研究では、ほとんど手をつけられていない小腸上皮細胞の分化について検討し、非常に興味深い知見が得られた。
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