肝線維化対策の研究の為には、コラーゲン代謝の合成系と分解系における基質動態や各調節因子に関する検討が不可欠である。そこで本研究においては、肝線維化過程における肝可溶性コラーゲン、I型・III型コラーゲン(proα_1(I)・proα_1(III))、コラゲナーゼ(MMP-1)、コラゲナーゼインヒビター(TIMP-1)の活性動態を病態の違う2種類の線維肝モデル、すなわちジメチルニトロサミン(DMN)線維肝モデルおよび豚血清(PS)線維肝モデルを用いて検討し、これまでに次のような知見を得た。 (1)ラットにDMNを単回投与すると、2週以降に中心静脈、門脈域を中心に明らかな線維肝が出現し、4カ月にわたって存続した。一方、ラットにPSを週2回継続投与すると、6週後より肝線維化が出現し、10週後には線維隔壁を伴う線維肝が出現した。 (2)肝組織中のコラーゲンをホモジナイザー、凍結・融解、ソニケイタ-の3段階操作で可溶化し、短時間で直接比色定量することができた。 (3)DMN投与2週後の肝コラーゲン量は、DMN用量依存性に増加し、明らかな線維肝のみられるDMN用量40mg/kgでは、対照肝の約2倍に増加した。一方、PS投与10週後の肝コラーゲン量も対照肝の約2.5倍に増加した。 (4)免疫組織化学および肝β-アクチンの遺伝子発現を内部標準としたコラーゲン代謝関連遺伝子発現の半定量的検討で、DMN投与3日まではI型コラーゲンの蛋白・遺伝子発現が共にIII型コラーゲンより強く、9日以降はIII型コラーゲンの蛋白・遺伝子発現が優位となった。また、MMP-1遺伝子発現は、3日目より2週目まで増強した。さらに、DMN投与2週後においては、III型コラーゲンの蛋白・遺伝子発現がDMN用量依存性に増加し、MMP-1およびTIMP-1遺伝子発現はDMN低用量30mg/kgで頂値を示した。一方、PS投与10週後においては、I型コラーゲンの蛋白・遺伝子発現がIII型コラーゲンより優位であった。 以上より、明らかな線維肝の出現前より、コラーゲン代謝の合成・分解系が共に亢進され、肝線維化進展と病態の違いに応じてI型またはIII型コラーゲン合成系が優位になることが示唆された。
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