ポリアミンは生物界に広く存在する低分子の非蛋白性窒素化合物で、細胞の増殖、分化、組織の修復に重要である。オルニチン脱炭酸酵素は、ポリアミン合成の律速酵素でその合成に不可欠で、小腸の増殖に重要な働きをしていると考えられてきた。この酵素活性は種々の因子によって高められ小腸の増殖を調節してきた。この酵素の活性化因子としては、食物の刺激等による局所性の因子が重要視されてきた。今回の実験目的は、1)小腸粘膜内のオルニチン脱炭酸酵素活性が外側視床下野等の中枢神経系の調節をうけていないか、2)小腸をはじめとする末梢臓器の酵素活性の上昇に中枢神経系が関与するとしたらどのような経路が考えられるか、等を解明することにあった。実際の方法としては、1)ラット小腸粘膜内のオルニチン脱炭酸酵素活性の日内変動の測定と横隔膜下迷走神経離断の影響、2)第3能室内に各種テスト液を投与し、末梢臓器での酵素活性の測定、を中心に実験した。その結果、十二指腸粘膜で食事に先だってオルニチン脱炭酸酵素活性が上昇し、その上昇は迷走神経離断術で認められなくなった。中枢神経系を糖欠乏状態にすると末梢臓器でのオルニチン脱炭酸酵素活性が上昇した。その上昇は迷走神経離断で減弱した。以上の結果は、オルニチン脱炭酸酵素活性が局所因子だけでなく中枢神経系からの調節をうけており、その調節系には迷走神経も関与していることが明らかとなった。中枢神経系は食物の吸収を通じて代謝調節に関与している腸管粘膜の増殖に重要な働きをしていることが示唆された。
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