研究概要 |
当研究室で樹立したヒト肝細胞癌株(OCUH-16,OCUH-A1)及び肝生検にて得られたヒト肝細胞癌組織を対象にして癌抑制遺伝子産物であるp53及びretinoblastoma gene product(pRB)、癌遺伝子産物のc-jun(pC-jun),細胞増殖に関与する核蛋白酵素のDNA polymerase alpha(DNA-PA),並びに増殖因子のtransforming growth factor alpha(TGF-A)の表出を検索した。p5は形態学的には、ほとんど表出されなかった。pRB,pC-jun,DNA-PA,及びTGF-Aは形態学的に表出が認められた。OCUH-16においては、TGF-Aは10-20%の癌細胞の胞体に表出されていた。DNA-PA,pC-jun,pRBは癌細胞の核内に表出され、経時的にその表出率はDNA-PAが増加するのに反し、pC-junとpRBは減少した。TGF-Aの中和抗体をOCUH-16,OCUH-A1に添加すると、細胞増殖が抑制されるが、この際、OCUH-16においては約90%の細胞が、OCUH-A1では約45%の細胞がapoptosisに陥り、治療応用の可能性があると思われる。生検肝癌組織では、細小肝癌から進行癌までpRBの表出がみられたことより、rPBは癌末期まで遺伝子は正常に保たれると考えられた。pRBの表出は癌の治療方法及び予後とは無関係であった。また、pRBは癌細胞ばかりでなく、血洞を構成する類洞壁細胞の核内にも認められた。pRBとDNA-PAの表出率の間には統計学的に相関関係がみられた(Human Pathology,1995,April,in press)。更に、最近話題のFAS抗原抗体系に関しても、検討を試みた。FAS抗原はOCUH-16,OCUH-A1細胞の胞体(細胞膜と粗面小胞体)に表出がみられた。これらの細胞にFAS抗体を添加すると、40-50%の細胞にapoptosisがみられた。TGF-Aの中和抗体とFAS抗体の組合せの投与により更に多くのapoptosisの誘導が期待できる。肝癌細胞と血管内皮細胞の混合培養では、癌細胞の胞体が突起を出し、内皮細胞に接触する像が観察されており、接着因子の解析等も予定している。
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