肝性昏睡の発生機序に脳内の種々の神経伝達物質の異常が密接に関連してしていることはよく知られた事実である。コリン作動性神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)も古くより注目され、とくにアンモニア代謝との関連より検討されてきているが、実験方向あるいは測定法の違いなどによりその動態については必ずしも一定の結論はえられていない。最近、脳内のモノアミン系(カテコラミン、セロトニン)ならびにコリン作動性神経伝達物質とその代謝産物を一括してかつ再現性よく測定する方法が確立され、神経系疾患で検討されてきているところから、肝不全での動態についても再検討が必要と考えていた。幸いにも平均6〜7年度に文部省科学研究費補助(一般研究C :肝性脳症におけるコリン作動性神経伝達物質の意義に関する実験的検討; 課題番号06670579)を受けることが出来、研究を行った。 その結果、急性肝不全マウス(チオアセトアミド負荷による急性肝障害モデル)においては脳内のコリン(Ch)およびACh濃度を有意の減少を認め、脳ではACh代謝低下状態にあることを明らかにした。また、モノアミン系代謝物質動態の検討では、従来の成績とほぼ一致し、代謝産物の有意の増加が観察され、モノアミン系代謝は亢進しているとの結果が得られた。さらに、両者の関連性を検討すると、AChはとくにセロトニン系代謝動態と強く相関している成績も得られた(平成6年度)。 一方、慢性肝不全ラッット(門脈大循環端側吻合による高アンモニア血症モデル; PCAラット)についてマイクロダイアリーシス法にてin vivoの状態で脳内のChとACh測定を行ったところ、PCAラットの脳灌流液中のACh濃度は対照ラットに比し有意に上昇、Ch濃度は有意に減少していた(平成7年度)。 したがって、急性肝不全と慢性肝不全では脳内のACh動態が異なる可能性が示唆され、肝性脳症時のACh代謝動態についてはアンモニア代謝との関連を含めて今後さらに多方面から引き続き検討が必要であると考えられる。
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