平成6年度には、まず、in vitroで劇症肝炎患者由来のHBVDNAの生物学的特性を調べた。イスラエルにおいて、院内感染した5例のB型劇症肝炎患者の血清より採取したHBVDNAの遺伝子配列を調べたところ、プレコアに終止コドンを生じる変異を認めたほか、S、X、C、Pそれぞれの領域に複数の変異を認めた。これまでに我々の研究を含め、いくつかの研究室から、劇症肝炎の発症とプレコアの終止コドンを生じる変異との関連が示唆されていたが、その後の研究では、劇症肝炎患者でも必ずしもプレコア変異を伴わない症例があることが解かった。そこで我々は、HBVの野生株、劇症肝炎患者由来の変異株、プレコアに終止コドンのみを人工的に導入した野生株の3種類のHBVを、in vitroで複製可能な形に再構成し、培養肝癌細胞にトランスフェクトして、それぞれのコンストラクトのHBV関連蛋白の産生、転写、複製についてそれぞれ調べた。その結果、劇症肝炎患者由来HBVは、蛋白、転写については野生株と同様の結果であったが、野生株と比較して非常に高い複製能を示した。しかしプレコアだけの変異株は、HBe抗原産生の欠如を除いては、全て野生株と同様の結果であった。このことから、劇症肝炎患者より採取したHBVは、高い複製能をもち、これが劇症肝炎の発症と関連していることが推察されたが、この特性は、プレコア以外の変異によって担われていることが解かった。
|