1.ヒト肝癌細胞のインテグリン発現の検索、肝細胞癌悪性度、転移能の評価 インテグリンの発現を免疫組織学的方法と分子生物学的方法により検討した。肝癌細胞にはconstitutiveなインテグリンが発現している他、その組織学的分化度に従ってインテグリン発現のパターンが異なることを見い出した。肝癌細胞のインテグリン発現パターンと組織学的特徴およびおよび臨床的背景を多因子解析した結果、肝癌細胞の遠隔転移と最も良く相関したのは血管浸潤能であり、組織学的には脈管浸潤であった。細胞外基質との相関では、血管内皮および基底膜の基質分子と相互作用するインテグリンの発現が認められた。これらの成績により、肝癌細胞に特異的あるいは選択的に発現したインテグリンは遠隔転移の臨床的なマーカーになり得る可能性が示唆された。また、肝癌細胞の悪性度の評価はAgNOR数およびその形態の観察が従来の方法よりも有用であるとの結論を得た。AgNORは肝癌細胞の増殖能をより良く反映し、また患者の臨床的背景(特に転移と予後の因子)と良く相関した。 2.合成オリゴペプチドによる肝癌細胞の転移抑制の実験的検討 樹立された培養肝癌細胞株(3株)のインテグリンサブユニットの発現を検討したところ細胞株による相違が見い出され、細胞外基質(ECM)への接着活性が異なった。 各細胞株のadhesion assayの結果や実験的転移モデルにおける実験成績から、合成オリゴペプチドにより癌細胞の転移能を修飾し得ることを確認した。今後は、肝癌細胞のみならず他の消化器癌細胞についても検討し、臨床応用に向け多くの知見を蓄積させる予定である。
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