原発性肺癌手術症例15例より得られた肺癌組織と正常肺組織及びヒト肺癌細胞株における55kDa及び75kDa腫瘍壊死因子(TNF)受容体の発現の有無を、mRNAレベルと蛋白レベルで検討した。ヒト肺癌細胞株はSBC-2、RERF-LC-MA(MA)、RERF-LC-MS(MS)、A549を用いた。55kDaTNF受容体mRNAは肺癌組織で15例中13例、正常組織で15例全例陽性であった。75kDaTNF受容体mRNAは肺癌組織で15例中6例、正常組織で15例中11例陽性であった。ヒト肺癌細胞株では、55kDaTNF受容体mRNAは全例陽性、75kDaTNF受容体mRNAはMSのみ陽性であった。MA、MS、A549の蛋白レベルでのTNF受容体の発現をみるためにTNFの結合能を測定したところ、全ての細胞においてTNFの高い親和性がみられた。TNFによる細胞傷害は55kDaTNF受容体mRNAを強く発現していたMAに高くみられた。MSやSBC-2でもTNFによる細胞傷害性がみられたが、A549はTNFに耐性であった。 原発性肺癌患者より得られた腫瘍組織及びヒト肺癌細胞株では、55kDaTNF受容体のmRNAの発現が多くみられたが発現レベルはβ-アクチンに比して弱かった。TNFの腫瘍細胞への細胞傷害性は、主に55kDaTNF受容体を介すると考えられている。しかし、55kDaTNF受容体の腫瘍細胞における発現は、TNFの効果が発揮されるための必要条件ではあるが十分条件ではないと考えられ、細胞内シグナルも重要であることが推察される。最近、55kDaTNF受容体のみに作用するhuman TNF mutantsが開発され、動物実験段階では抗腫瘍効果を維持しつつ、副作用の軽減がみられたとの報告がある。今後55kDaTNF受容体の遺伝子を肺癌細胞に導入しTNF受容体をより強力に腫瘍細胞に発現させることによりTNFが肺癌患者の治療において有用である可能性が示唆された。
|