研究概要 |
本研究では、悪性腫瘍とくに肺癌に対する遺伝子治療の基礎的研究として、腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF)に対する受容体について研究を行った。TNFは、腫瘍細胞に対して細胞傷害活性を示す生理活性物質である。これまでの臨床研究では、生体へのTNFの全身投与は抗腫瘍効果が弱く、臨床的効果を得るためには人での最大耐量の5倍から25倍の高濃度が必要であろうと推測されている。したがって標的腫瘍細胞のTNFに対する感受性を増大させるためにはTNF受容体の導入が一つの方法として考えられる。 近年、TNF受容体の存在が明らかになるとともにその遺伝子構造が決定された。TNF受容体には2つの異なる受容体(55KDa;TNF-RI,75KDa;TNF-RII)が存在する。 今回の検討では、すべての肺癌組織にTNF-RI遺伝子の発現を認めたが、その発現はきわめて弱いものであった。一方、TNF-RII遺伝子の発現は、主として正常組織に存在し肺癌組織での発現頻度は低いことが示された。さらに、TNF依存性細胞傷害活性を調べた結果、55KDaのTNF-RIによりシグナル伝達が行われると考えられた。以上のことより、TNF-RI遺伝子を肺癌組織に移入しその発現を増強させることにより、肺癌細胞に対するTNFの感受性を増強させうることが示唆されるため、2つの異なるTNF受容体遺伝子移入のための発現ベクターの作製を試みた。その結果、pEF-BOS-55KDとpEF-BOS-75KDを構築した。これらの発現ベクターは、in vivoでのTNF受容体の役割と肺癌に対する遺伝子治療の研究をすすめるうえで有用であると考えられた。
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