本研究は傍腫瘍性神経症候群患者血清中の抗体が認識する分子の構造を分析し、その生理学的な機能を明らかにすること、また認識分子に対する抗体が存在した時にどのような機序で特定の神経細胞の変性をきたすのかを明らかにすること。さらに本症の神経学的診断と癌のスクリーニングのために、特徴的な抗神経抗体(抗HuD抗体)の検出のための免疫ブロットシステム、ELISAシステムを確立することを目的とした。 我々は急性小脳変性症(PCD)患者血清を用いた、神経組織cDNAライブラリーの免疫スクリーニングで得られたクローン(CZF)、また亜急性感覚性多発神経炎の患者血清で同様の方法で得られたクローン(HuV)の核酸およびアミノ酸の配列を検索した。CZFはZnフィンガー構造をもち、HuVはDNA結合構造とCAGの繰り返し配列をもち、それぞれ転写調節にかかわる可能性が示された。ノーザンブロテイングをおこなったところCZFは4.5kb、HuVは9kbに反応バンドがみられた。これらの分子の部分cDNAのリコンビナント蛋白を作製し、各々が患者血清と反応することを確認した。またCZFおよびHuVのリコンビナント部分蛋白を動物に接種して抗体を作製し、免疫源との反応を確認した。Znフィンガー構造をもつCZFについては、フィンガー構造自体の繰り返し構造や、familyと思われる極めて類似性の高い分子があるためプローブの設定に困難があり、現在なお全長の解析が進行中である。HuVにはいわゆるCAGの繰り返し配列をもつことが示され、優性遺伝を司る分子である可能性が示唆されたが解析は未だ全長に及んでいない。 我々はこれらの患者および抗Hu抗体をもつ亜急性感覚性多発神経炎の患者血清中のIgGを抽出し、神経系の腫瘍細胞ラインであるNB1細胞に添加した。腫瘍細胞ラインの生存への影響はみられなかったが、今後その他の神経系細胞ラインを検索すること、IgGと共にHcat shockなどの各種ストレスを加えた際の細胞ラインの生存への影響を調べる必要があると思われた。 神経学的診断と癌のスクリーニングのため、HuD分子のリコンビナント部分蛋白を作製し、抗神経抗体(抗Hu抗体)の検出のための免疫ブロットシステム、ELISAシステムを確立した。癌のスクリーニングのみならず、治療効果の評価や再発の警告として有用であることが示された。
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