我々は、成人発症の神経症状、網膜変性、糖尿病を呈し体内の鉄過剰蓄積を来す、血清セルロプラスミンの欠損が原因と考えられる新たな鉄代謝異常症を世界で初めて見出した。そこで今回は、本疾患の原因と考えられるセルロプラスミンの遺伝子異常について検討した。また本疾患の症状の発現を解明する上で、血中の主要な抗脂質過酸化作用を呈するセルロプラスミンの消失と脂質過酸化の促進因子である鉄の蓄積による、フリーラジカル産生促進を介した脂質過酸化の亢進が関与することが予想された。そこで血漿のチオバルビツール酸反応陽性物質(TBARS)を指標とし、脂質過酸化について検討した。 その結果、本家系においてセルロプラスミン遺伝子のエキソン7の5bpの挿入が同定された。この異常はアミノ酸410の位置にTACATが挿入されており、このためフレームシフトが起こって446アミノ酸の位置でpremature terminationが生じることになる。従って本疾患では通常のセルロプラスミン蛋白の約1/2の大きさの異常蛋白が発現すると考えられ、異常蛋白は分解されやすく血中のセルロプラスミンが欠損することになると考えられた。 本家系のホモ接合体3名、ヘテロ接合体8名および正常対照12名の血漿のTBARSを測定するとともに、血漿に銅イオン、銅イオン+過酸化水素をそれぞれ添加してTBARSを測定した。さらにセルロプラスミンを事前に添加してTBARSに対する抑制作用を検討した。その結果、基礎値の血清セルロプラスミン濃度とTBARSは逆相関しており、銅イオンや過酸化水素の添加で、ホモ接合体において著明なTBARSの増加を認めた。この増加は事前に外来性のセルロプラスミンを添加することで約65%以上抑制された。 以上より本疾患はセルロプラスミンの遺伝子異常を原因とした常染色体劣性遺伝をとり、脂質過酸化の亢進が症状発現の上でなんらかの関与をしていることが明らかとなった。
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