我々は成人発症の神経症状、網膜変性、糖尿病を呈し体内の鉄過剰蓄積を来す。血清セルロプラスミン欠損が原因と考えられる新たな鉄代謝異常症を世界で初めて見出した。そこで今回は、本疾患の原因と考えられるセルロプラスミンの遺伝子異常について検討した。また本疾患の発現を解明する上で、血中の主要な抗脂質過酸化作用を呈するセルロプラスミンの消失と脂質過酸化の促進因子である鉄の蓄積による脂質過酸化の亢進が予想された。そこで血漿のチオバルビツール酸反応陽性物質(TBARS)を指標として、脂質過酸化について検討した。 その結果、本家系においてセルロプラスミンの遺伝子異常が、エキソンクの5bpの挿入であることが固定された。この異常によりフレームシストが生じ、36アミノ酸N末側で終止コドンが出現した。従って本疾患では正常の約1/2の短い異常蛋白が発現されるが、速かに分解されている可能性がある。本家系のホモ接合体3名、ヘテロ接合体8名と正常対照12名の血漿TBARSと血清セルロプラスミン濃度との相関をみたところ、有意な逆相関を認めた。また各々の血漿に銅イオン、銅イオン+過酸化水素を加えてTBARSの増加をみたところ、患者では10倍以上の有意な増加をみた。正常対照は3倍以下であった。セルロプラスミンを事前に添加しておくと、これらの増加は約65%以上抑制され、その抑制は患者で著明であった。 以上より本疾患は、セルロプラスミンの遺伝子異常とした常染色体劣性遺伝をとり、脂質過酸化の亢進が病態発現の上でなんらかの関与をしていることが明らかとなった。
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