遺伝性脱髄性疾患の一つにgalactosylceramidase Iの欠損するgloboid cell leukodystrophyがあるが、我々はその病態に関しここ10数年研究を行なってきた。その中で、本疾患では酵素欠損のため細胞毒性のあるgalactosylsphingosine (galactosylceramideのリゾ型)が蓄積し、これが細胞死を引き起こすことを見いだした。さらにこのようなリゾ型スフィンゴ脂質が他のリピドーシスにおいても蓄積し、同様に細胞障害を起している可能性を示唆した。我々はそれらリゾ型スフィンゴ脂質の無毒化機構を検討する目的で以下の成果を得た。 平成6年度はリゾ型スフィンゴ脂質の合成経路を検討した。β-glucosidase阻害剤であるcondurital B epoxide (CBE)を培養液に入れると、量依存性にGlc Sphの蓄積が見られた。次にglucosyl ceramide (Glc Cer)合成阻害剤であるPDMPを培養液中に加えると、Glc Sphの蓄積はむしろ低下した。これらの結果より、Glc Sphはsphingosineよりの合成とともにGlc Cphよりのdeacylationで合成されることが想像され、実際Glc Cer loading testやin vitroの実験により確かめられた。 平成7年度はgalactosylceramideのリゾ型スフィンゴ脂質の分解を司る酵素であるgalactosylceramidase I の分子生物学的検討、さらに本酵素が欠損している成人型Krabbe病の分子遺伝学的研究を行なった。まず、PCRにより全長約2kbのcDNAを得た後、それを動物細胞に導入し、発現があることを確かめるとともに、全塩基配列を明らかにした。また、4例の患者においても同様の作業を行ない、4例すべてにおいて変異を明らかにした。しかしながら、その中には明らかに正常でも存在するアミノ酸と置換する塩基の変異が発見され、これらはおそらく多形と考えられた。現在それぞれの変異を導入したコンストラクトを作成し、発現実験を行なっている。
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