研究概要 |
近年心筋ミオシン軽鎖に対するモノクロナル抗体を用いたキットが心筋梗塞の診断に用いられているが,このキットと脳ミオシンの間には交叉反応がみられることが報告されている。私達はこの心筋梗塞診断キットを用いて,急性期脳血管障害患者の血清ミオシン濃度を経時的に測定した。脳血栓および脳塞栓患者では,血清ミオシン濃度は発症後急速に上昇し,平均すると第4病日に最高値を示した後,次第に下降した(最高値の平均は9.97ng/ml)。血清ミオシン濃度は,脳梗塞の臨床的な重症度や,CTスキャンでの病巣の大きさとは必ずしも相関せず,糖尿病を合併した中等症の72才脳血栓例で異常高値(41.5ng/ml)を示した。脳出血では血清ミオシン濃度の上昇はみられなかった(平均0.52ng/ml)。 次に,私達の作成した脳ミオシンに対するモノクロナル抗体を用いて,脳血栓,脳塞栓,脳出血,クモ膜下出血,一過性脳虚血発作患者について,血清脳ミオシン濃度を経時的に測定した。脳血栓および脳塞栓患者において,発症5日目から7日目にかけて上昇する例が多かったが,測定感度が十分でなく,臨床経過および頭部CTスキャンより脳血栓と考えられる例でも血清脳ミオシン濃度が有意の上昇を示さないことがあった。また,測定の手順が複雑であるため,迅速な測定が困難であった。脳梗塞の早期診断のために,血清脳ミオシン濃度を測定するからには,今後測定感度を上昇させるとともに,測定を簡略化することが必要であり,現在心筋梗塞診断キットを見習ってキット化する方向に研究を進めている。
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