昨年度は多発性硬化症(MS)の急性期脱髄後におけるミエリン再生にTNF-αが阻害的に作用している可能性を実験的に証明した。今年度は慢性期脱髄病巣におけるアストログリオーシスがミエリン形成に阻害的に作用している可能性を検証した。アストロサイトの培養は新生仔ICRマウス脳よりMcCarthyらの方法により精製し、24-well培養器に培養した。アストロサイトを継代せずにこのまま培養を続けていくと5、6週以降より次第に細胞は大きくなり(hypertrophic)、線維性(fibrous)になっていった。抗GFAP抗体で免疫染色すると培養日数の増加とともにGFAPの染色性も増強していき、fibrousになってく様子がいっそう明らかとなった。1well当たりの細胞数は最初4×10^4/well播くと、培養5週目に約3倍に増加したが、その後減少し、8週以降は約1.5倍の細胞数を維持し続けた。これらの結果はアストロサイトを継代せずに培養を続けるとアストログリオーシス様の変化をきたし、アストログリオーシスのin vitroでのよいモデルになりうることが示唆された。15EA02:これら培養日数の異なる種々のアストロサイトを用いて、ミエリン形成に及ぼす影響を調べた。すなわちアストロサイトの上に新生仔マウスの小脳片をのせ、小脳組織におけるミエリン形成を調べてみると、4週までのアストロサイト上ではミエリンは100%形成されるが、5週以降次第にミエリン形成は悪化していき、12週以降ではもはやミエリンは全く形成されなくなった。抗NFP抗体で培養組織を免疫染色してみると神経細胞及び軸策はミエリン形成の有無に関わらず十分に発達が見られたので、アストログリオーシスがミエリン形成を特異的に阻害していることがわかった。これらは慢性期の脱髄病巣の治療を考える上で重要な示唆を与える。
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