1.TNF-αのミエリン形成への作用:マウス小脳組織片を培養開始時から1x10〜1x10^4U/mlの濃度のTNF-αの入った培養液で培養した。18日目にミエリン形成率とミエリンの完成度を定量的に評価した。その結果、1x10^2U/mlの濃度以上で強いミエリン形成の抑制がみられた。しかしプルキンエ細胞の発達には影響はなかった。一方、すでにミエリン形成した、成熟した培養組織にTNF-αを投与したが、1x10^4U/mlの高濃度でもミエリンへの直接的な傷害作用はみられなかった。TNFは脱髄に直接関わっているというよりも、むしろ脱髄前後に集積するastrocyteやmacropohageから生産されるTNFが、髄鞘の再形成を阻害している可能性が示された。2.In vitroにおけるastrogliosisの作成:新生仔ICRマウスの脳よりastrocyteを精製し、4x10^4個/wellの細胞より24-wellに培養を開始した。細胞数は5週目で約3倍に増殖したが、その後減少し、8週以降は約1.5倍の細胞数を維持した。培養を長期間続けるとastrocyteはhypertrophicでfibrousとなり、抗GFAP抗体で強く染色されるようになり、astrogliosis様の変化をきたした。3.培養日数の異なる種々のastrocyteを用いて、ミエリン形成に及ぼす影響を調べた。培養astrocyte上に新生仔マウスの小脳片をのせ培養し、小脳組織におけるミエリン形成を調べてみると、4週目までのastrocyte上ではミエリンは100%形成されるが、5週以降次第に悪化していき、12週以降ではもはやミエリンはまったく形成されなくなった。抗NFP抗体で免疫染色してみると、神経細胞及び軸索はミエリン形成の有無に関わらず十分に発達がみられたので、astrogliosisがミエリン形成を特異的に阻害している可能性が示唆された。これらの結果は、多発性硬化症のような脱髄性疾患の慢性期の脱髄病巣では、gliosisがミエリンの再生を阻害している一つの大きな要因と考えられた。
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