研究概要 |
目的)アポ蛋白E(apoE)-ε4 alleleはアルツハイマー病(AD)の危険因子であるが、ε4のみではAD発症の必要十分条件ではなく、ε4の作用を修飾する因子が求められている。われわれは血清リポ蛋白濃度が関係する可能性を検討し、昨年度は1)ADでは血清apoE濃度には対照と差はなく、しかもε4保有の有無とも関係なかった。2)ADではε4保有型に関係なくapo-Aが有意に低下しており、A-1の低下はAD発症の危険因子である可能性を報告した。本年度はさらに対照疾患を拡げて血清アポ蛋白,血清脂質の定量を行い,検討を加えた. 対象)AD : 45例,パーキンソン病(PD) : 38例,ダウン症候群(DS) : 52例,対照は60歳以上の健常高齢者: 79例,およびDSに対応する健康幼児25例(7-14歳). 検査項目)血清リポ蛋白(A-1, B, C-2, C-3, E)濃度,血清脂質値(T-chol, HDL-chol, TG)の定量およびapoE表現型は血清を用いた等電点電気泳動法によった. 結果) 1. ADではapoE-1のみ有意に低下していた.apoA-1は女性の方が男性より高かったが,apoE表現型には関係なかった.健常高齢者ではε4保有者の方が非保有者に比してT-cholが高く,ε4が動脈硬化と関連するというこれまでの結果を支持したが,ADではこの関係がなくε4保有ADのT-cholの上昇はなかった. 2. PDでは血清リポ蛋白濃度および血清脂質値は健常高齢者と全く差はなかった.3. DSではapoA-1, apoB及びT-cellが健常高齢者健康老人に比して低値を示したが,年齢をマッチさせた健康幼児との間には有意差はなかった. 考察)apoA-1の低下とε4保有者でT-cholが上昇しないという結果はADに特異的な可能性がある.DSはADと類似のパターンを示したが,年齢の要素の方が大きく,ADとDSに共通とはいえない.
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