研究概要 |
ヒポカルシンは,申請者らが見い出した海馬に特徴的に分布するカルシウム結合蛋白質で,細胞内カルシウム濃度の生理的変動を感知し,海馬錐体細胞において情報伝達の効率を調節していると考えられている.そこで,ヒト・ヒポカルシン遺伝子を単離し,構造解析を進めるとともに染色体座を決定することにより,遺伝性精神神経疾患や老化にともなう記憶障害との関連を追求することを目的とした. 1)ヒト・ヒポカルシンcDNAのクローニング:既に得ていたラット・ヒポカルシンcDNAをプローブとして,ヒト・脳cDNAライブラリーよりヒト・ヒポカルシンcDNAをクローニングし,塩基配列を決定した.ラットのものと比較したところ,塩基配列では95%,予想アミノ酸配列では100%一致した. 2)ヒト・ヒポカルシン遺伝子の染色体の同定:ヒト・ハムスター雑種細胞株DNAを用いて,サザーン法およびPCR法によりヒト・ヒポカルシン遺伝子の存在する染色体の同定を行ったところ,第1染色体に存在することが明らかとなった. 3)類似蛋白質cDNAのクローニング:ヒポカルシンに類似する蛋白質が多数神経系に存在するが,cDNAのクローニング条件を緩やかにして類似蛋白質のヒト・cDNAのクローニングを行ったところ,5種類のcDNAクローンが単離された.そのうち1つの全塩基配列を決定したところ,193残基のアミノ酸からなる蛋白質をコードしていた.ヒポカルシンとの相同性は,塩基配列で90%,予想アミノ酸配列で96%であり,この遺伝子産物をHLP1と命名した.HLP1のmRNAは脳でのみ発現していた. 今後は,残りのcDNAクローンの解析を進めるとともに,これらcDNAに対応するゲノム遺伝子の単離を進め,ゲノム遺伝子をプローブとしてFISH法によりまず染色体座を同定しなくてはならない.ヒト・ヒポカルシンのゲノム遺伝子については,既に全域を含むクローンを単離しており,現在構造決定を行っている.
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