研究概要 |
1600ppmの酸化エチレン曝露を5時間,Sprague‐Dawleyラットに行うことによりすべてのラットが,行動の抑制,努力呼吸を示した。このようなラットは、酸化エチレン中毒の急性動物モデルとして妥当であると判断した。この動物モデルにおいて,夜間12時間の行動量は,曝露前に比較して曝露後に減少し,その後回復する傾向が認められた。磁気共鳴法による検討において,被殻,前頭葉皮質,三叉神経では曝露前,曝露1日後および曝露7日後の拡散係数に明らかな変動が認められなかった。しかし視神経では曝露7日後には,曝露前および曝露1日後に比較して拡散係数の低値が認められた。酸化エチレンはcytotoxicに作用するので,視神経の軸索膜または髄鞘-シュワン細胞膜により高度の組織障害が生じた可能性が推定された。一方,T_2画像による浮腫の検出は出来なかった。以上の結果を総合的に判断すると,急性曝露によってラットの中枢神経機能は高度に障害され,その障害は脳の一部に拡散係数の異常として反映されるが,T_2画像としてその異常が認められるには至らないと考えられる。また行動量の低下は曝露後に生じるが,その後その低下は改善すると判断される。酸化エチレンの致死量に近い急性曝露による重篤な神経障害後遺症は,残存しない可能性が大きい。
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