1.インスリン依存型糖尿病(IDDM)ラットの腸間膜動脈において、アセチルコリンによる内皮依存性過分極因子(EDHF)を介した内皮依存性過分極および拡張反応が低下していた。その機序として高血糖に由来するadvanced glycosylation endproductの蓄積の関与は否定的であった。 2.IDDMラット心では冠毛細血管の走行異常が生じ、その原因としてインスリンの欠乏によるプラスミノーゲン・アクチベータ-1(PAI-1)活性の低下に由来する線溶亢進が示唆された。この毛細血管異常へのadvanced glycosylation endproductの蓄積の関与は否定的であった。 3.ブラジキニンによる冠血管床の拡張は、内皮由来弛緩因子(EDRF)反応による部分はIDDM心で低下していた。このEDRF反応の低下は、イルソグラジンで線溶亢進を抑制して冠毛細血管の走行異常を正常化するということにより改善された。しかしEDHFによる反応には改善は認められず、EDHF反応はIDDMにおいて冠毛細血管の走行異常が生じても保持されると考えられた。 以上より、IDDMラットの心筋組織では毛細血管走行異常、EDRF機能障害などの冠微小血管病変が存在することが明らかとなった。その機序として、われわれはラット冠微小血管培養内皮細胞において、インスリンがPAI-1蛋白産生を増加させることを確認しているので、インスリン欠乏がPAI-1活性低下を惹起し、その結果線溶系が亢進するためと考えている。今後この仮説を実証するために、インスリンとPAI-1、t-PAの関係をさらに詳細に検討するべきと考えられる。また本研究では、臨床的に抗潰瘍薬として用いられているイルソグラジンが、IDDMにおける冠微小血管病変形成を抑制した。もしこの抑制効果が心機能に良い影響を及ぼすならば、臨床的意義は非常に大きいと思われた。
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