我々は、傷害された心筋では細胞内のCaイオン過剰が生じ、細胞内にCaイオン濃度の振動現象が起ることを観察してきた。このカルシウム振動は、筋小胞体からのCaイオン漏出によって生じ、心筋の収縮能低下、弛緩傷害、不整脈発生の原因となる。そこで我々は、筋小胞体からのCaイオン放出を抑制しCa振動を防止する可能性のある薬剤を細胞内カルシウム安定剤と名付け、具体的な薬剤のスクリーニングをおこなった。当初、計画書に記載の如くリアノジン、KT362を試みた。しかし、薬理学的濃度において陰性変力作用が強く、これらの薬剤は実用性なしと判定した。次に悪性高熱の治療に用いられているダントリウム(以下Dと略す)について検討した。その結果、1)ハムスター摘出灌流心において生理的濃度のカルシウム濃度(2mM)の灌流下では、臨床に使用されている濃度のDは軽度の陰性変力を示したが、4mM以上のカルシウム負荷によって生じた収縮力低下を改善する効果がみられた。また、カルシウム負荷による静止期張力の増加を半減させ、後収縮の発生を抑制した。2)ハムスター左心室より単離した心筋細胞においてDはカルシウム振動を抑制した。これらの結果からDは心筋細胞内カルシウム安定剤として有用であると考えられた。
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