1、大型動物を用いた放射光による冠動脈造影実験:ヒト応用のための予備実験 放射光による冠動脈造影実験はこれまで中型イヌを用いて行われ、良好な造影像を得てきた。しかし、体厚が厚いヒトに応用できるかどうかは明らかではなかった。そこで、ヒトの体厚に近いヤギならびに大型のイヌを用いて造影実験を行った。 体厚が厚くなれば撮影にはより強度の放射光が必要であり、高エネルギー物理学研究所の多極ウィグラーARNE1からの放射光を用いて実験した。ARNE1は、これまで用いてきたビームライン(ARNE5)に比べ約40倍の強度のX線を発生させることができる。 ARNE1からの放射光を用いた結果、体厚の厚いヤギならびに大型イヌでも経静脈性に良好な冠動脈造影像を得ることができた。また、被曝線量についても検討したが、従来の冠動脈造影検査と同等であることが明らかとなった。これらの結果は放射光による経静脈性冠動脈造影がヒトにも応用できることを示すものである。我々はすでに放射光による冠動脈造影のヒト応用の件を筑波大学の倫理委員会に申請し、その承認は得られている。現在、ヒトでの実施に向け準備を進めている。 2、放射光による冠動脈造影像からの冠血流計測法の開発 放射光による冠動脈造影の発展的応用として、造影像からの冠血流計測法についても検討を進めている。 冠血流計測のための超音波プローブを冠動脈に装着した慢性イヌを作成し、このイヌで放射光による冠動脈造影を行った。そして、冠血流量の実測値と造影像からtransit-time analysis法により求めた冠血流量の算定値とを比較した。 冠血流量の実測値と算定値との差は約10%程度との結果を得つつあり、造影像からの冠血流計測は有用であると考えられる。
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