拡張型心筋症や慢性に経過する心筋炎では、心筋構成蛋白による自己免疫機序が病態形成に強く関与している。既に我々は、その抗原として主な心筋収縮蛋白である、心筋ミオシンに注目してきた。そして、ヒト心筋ミオシンをLewisラットで感作し、致死的な自己免疫症性心筋炎の動物モデルの確立に成功した。このモデルは、従来の実験的自己免疫性心筋炎の動物モデルでは明らかに出来なかったTリンパ球による自己免疫機序の存在を明らかにしてきた。すなわち、ミオシン反応性Tリンパ球が、本疾患モデルの病態形成に主役を演じている。さらに興味深いことは、適当な間隔で抗原感作を繰り返すと、この自己免疫性心筋炎は、遷延化し、ついには拡張型心筋症に至ることも明らかに出来た。従って、心筋ミオシンの抗原部位(エピトープ)の局在決定は、自己免疫性心筋炎の病態解明に必須なばかりでなく、臨床における本疾患の判断や治療にも欠かせない重要なテーマとなっている。 そこで、この研究ではエピトープの解明をペプチド側から探究すべく遂行された。まず、心筋ミオシンをα-キモトリプシンにて、頭部はトリプシンにてさらに切断した。各種クロマトグラフィーによる精製を繰り返した後、十分量のペプチドを回収した。それを抗原として、ラットに次々に感作させ心筋炎惹起能を検索した。 その結果、尾部のrod分画内のRDCB9分画に主要なエピトープが、また頭部のS-1内の23kDa分画にマイナ-なT細胞エピトープが存在していた。RDCB9分画を用いて、心筋炎ラットから採取したリンパ球を刺激したところ、有意にTリンパ球の活性化がみられた。従って、RDCB9分画内にメイジャーエピトープが存在すると結論づけられた。さらに、惹起された心筋炎を対象に、Tリンパ球のクローナリティをVβ鎖とCDR3領域を使って検討したところ、オリゴナ-ルなTリンパ球クローンの存在を確認することに成功した。 しかしながら、最終のエピトープの一次構造の決定や、ミオシン反応性Tリンパ球の系代培養の確立など今後の課題も残された。
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