研究概要 |
本研究はフィブリン塊に対する培養血管平滑筋細胞の反応を主に細胞生物学的手法を用いて解析しようとしたものである。平成6年度にはフィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の侵入,遊走を定量的に評価する系を開発することに成功した。本年度はこの系を用いてウィブリン・ゲル中への平滑筋細胞の遊走に影響する因子について解析を行った。即ち、培養皿上にコンフルエントに培養した平滑筋細胞層に,精製フィリブノゲン溶液にトロンビンを加えることによってフィブリン・ゲルを作成し,培養を続けると,平滑筋細胞は経時的にゲル内に遊走,侵入する。位相差顕微鏡により,遊走している細胞は遊走していない細胞から容易に区別でき,1視野あたりの遊走細胞数を計数することにより再現性のある定量化が可能であった。ゲル内への遊走細胞は培養6時間後から出現し,24時間後まで直線的に増加した。また,遊走細胞数はゲル形成に用いたフィブリノゲンの濃度1〜5mg/mlの範囲で増加した。ゲルの形成のために使用したトロンビンは0.05-1u/mlの広い濃度範囲で遊走細胞数に影響しなかったが,それより高濃度では遊走細胞数は減少傾向を示した。さらに以下の検討を行った。(1)ゲル形成後アンチトロンビンIII,ヒルジン,PPACK添加による残存トロンビンの阻害,(2)フィブリン・ゲル形成前にトラネキサム酸またはアプロチニンを添加することによる線溶系の阻害,(3)フィブリノゲンの尿素処理による第XIII因子の不活化,(4)フィブリン・ゲル洗浄によるフィブリノペプチド除去,はいずれも平滑筋細胞の遊走に影響しなかった。 以上より,フィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の遊走は残存トロンビン,フィブリノペプチド,第XIII因子によるものではなく,また,線溶系の関与は認められなかった。即ち,フィブリン・ゲル内への平滑筋細胞の侵入・遊走はゲルと平滑筋細胞自体の性質に依存しており,他の走化因子の存在を必要としないことが明らかになった。
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