心臓に圧負荷や容量負荷が加わると、心筋細胞は肥大を生じ、やがて収縮不全に至る。肥大心筋細胞では細胞膜変化、細胞内微細構造変化、細胞内情報伝達機構変化、細胞成長因子の発現、増加等があることが明らかにされている。しかし肥大心から収縮不全へ移行する機序は不明である。わずかに細胞膜Ca^<2+>チャンネル受容体(dihydropyridine(DHP)受容体)の減少やCa^<2+>-ATPasemRNAの減少が関与する可能性が示唆されているにすぎない。本研究は単離心筋細胞の収縮性、calcium-transient等を観察記録して、1)肥大から収縮不全に至る過程でどのように変化するか。2)互いの経時的変化の関連を明らかにすることを目的とする。今年度は以下の知見を得た。 1、弁膜症患者の人工弁置換術中に心房自由壁標本より単離心筋細胞標本の作成を行った。 レーザー回折によるサルコメア長測定装置を用いて収縮機能の実時間による測定実験を行ったが、電気刺激に十分に反応する心筋細胞標本を毎回作製することが困難で静止状態のサルコメア長を測定した。同時に顕微鏡付属のカメラにて心筋細胞を撮影し、面積計測により肥大心細胞の形態的評価を行った。その結果右房自由壁から取り出した心房筋細胞は三尖弁逆流症の程度が強い程、肥大が認められた。一方サルコメア長は逆流症の有無に関係なく一定であった。また同一標本にてCa^<2+>-ATPase mRNAのノーザンブロットハイブリダイゼイションを行い心房負荷患者群で低下傾向を認めた。 2、圧負荷動物モデルを用いて肥大の進展と細胞の収縮機能の実験を行い、左室肥大の発達したラットではコントロールに比較してサルコメア長は変化を認めぬものの収縮能は低下傾向を示した。同一モデルで細胞内骨格構成タンパクの測定を行っており肥大に伴い増加傾向を示しているのを明かにした。
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