観血的、非観血的手法を用いて総合的に心疾患モデルラットの病態解明を試みた。 1.WKY/NCrjが解剖学的にヒト肥大型心筋症(HCM)と類似しているが、吸着型微小ドプラプローブを用いて、冠血行動態においてもヒトHCM肥大型心筋症と同じ特徴を有することを証明した。また、冠動脈中隔枝の走行異常がこの異常の一要因となりうることも明らかにした。 2.WKY/NCrjではヒトHCMと同様に脂肪酸代謝障害が前壁中隔接合部、後壁中隔接合部において高頻度に出現することを明らかにした。この障害にはミトコンドリア機能障害による脂肪酸の好気的リン酸化の低下が関与している可能性が考えられた。 3.ラット母体へのインドメサシン投与によって胎生末期の胎仔の動脈管狭窄を誘発し、ヒトHCMと類似した心病変を作成することに成功した。この原因として胎生末期の一時的な右室圧負荷が考えられた。 4.WKY/NCrjにおける初期発生の異常、特に神経提細胞の走行異常を免疫組織化学的手法を用いて同定した。胎生13日目から14日目にかけてWistarに比較して第一から第三体節神経管より移動する神経堤細胞の移動が障害されていた。さらに胎生16日目には左第6鰓弓動脈の選択的な細胞死を引き起こすことをTUNEL法にて証明した。 5.6週齢SHRに対してACE阻害剤(ACEI)、A-II受容体拮抗剤(A-II)を慢性投与し、心肥大進展抑制効果、血行動態、冠血流速波形、冠血管予備能、病理学的所見について検討した。薬剤投与群では心肥大は無投薬群より有意に抑制された。薬剤投与群の左室拡張能は無投薬群よりも良好であった。冠血流速波形の解析では無投薬群で認められた拡張能低下によると思われる冠動脈血流拡張早期成分の低下は薬剤投与群では認められず、Reactive hyperemiaによって評価した冠血管予備能も薬剤投与群は無投薬群に比して良好であった。以上より、ACEI-、A-IIは心肥大進行、左室拡張障害の進行、および冠循環障害の進行を抑制する効果を有するが、両薬剤間の効果の相違は認められなかった。病理組織は現在解析中である。 6.17週齢のSHRでも5.と同様の実験を行っている。結果については5月頃には明らかにする予定である。
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