研究概要 |
特発性心筋症における細胞増殖因子の役割を明らかにする目的で特発性心筋症をはじめ,急性心筋炎を含む45人の患者より内膜心筋生検標本を得て,生検心筋組織の凍結切片に対して,抗ヒト酸性FGF,塩基性FGF,TGFβ抗体,抗FGFレセプター抗体を用いたABC法による免疫染色を施行した.さらに組織計測として心筋細胞横径および間質線維化率,抗第8因子関連抗原抗体の染色による心筋組織の毛細血管密度などを算出して増殖因子の染色結果と比較した. 特発性心筋症21例(HCM 9,DCM 12例),高血圧性心疾患3例,および心エコー図および心筋生検の光顕所見で異常を認めないコントロール例6例の合計30例の検討の結果,心筋症患者における酸性FGF,塩基性FGF免疫染色の陽性率は,非心筋症対照群に比して有意に高率であった.(酸性FGF:71.4%対0%,塩基性FGF:73%対33.3%).また,光顕組織計測による心筋細胞径は酸性FGFの免疫染色陽性例で有意に大であった(23.1±6.3μm対18.3±3.9μm).FGFの染色性による間質線維化率および毛細血管密度の差はなかった.一方,FGFの染色性により左室駆出率,および心エコー図より求めた左室拡張末期径,左室重量等を比較したところ,酸性FGF陽性例において左室重量は有意に大であった. 以上,心筋症患者の生検組織における免疫組織化学的解析によって,ヒト心筋症の心筋細胞における細胞増殖因子FGFの発現が明らかにされ,FGF,特に酸性FGFが心筋症の心筋細胞肥大にたいして重要な役割を演ずることが強く示唆された.加えて,mRNAレベルでの増殖因子の発現を明らかにするため,FGFのcDNAプルーブを得てin situ hybridizationを施行中である.
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