心臓の虚血時には、心臓局所で産生されるキニンが虚血改善作用を有することが明らかにされている。犬の心臓ではカテプシンD様酵素がキニン産生酵素として報告されているが、まだ同定はされていない。今回犬の心臓におけるキニン産生酵素の精製とcharacterizationを行った。雑種成犬の心臓を摘出しホモジナイズ作製し遠心後、上清を用いてDEAE-Sepharoseカラム、Sepharose-aprotininカラム、Wheat germ lectinカラムにてキニン産生酵素を精製した。キニノゲナーゼ活性は精製ウシ低分子キニノーゲンと37℃にて60分間インキュベーション後、産生されたキニン量をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定した。カテプシンD活性はテトラデカペプチド・レニン基質からのアンジオテンシン(Ang)I産生量をRIAで測定した。更に、キニン産生酵素をAngl(2x10^<-4>M)と37℃にて2時間反応させ、産生されたAngIIを逆相HPLCにて測定した。その結果、キニン産生分画はカテプシンD活性を示す分画とは異なっていた。犬心筋のキニン産生酵素は分子量がSDS-PAGE上約6万の糖蛋白であり、約20μg ofブラジキニン/hr/mg蛋白(pH8.0)のキニノゲナーゼ活性を示した。至敵pHは8.0で、その活性はアプロチニン10^<-5>Mで抑制され、ペプスタチンやキモスタチンでは抑制されなかった。一方、この酵素はAmgI変換能をも有し、その活性は約2.0μg of AngII/hr/mg蛋白(pH6.5)で、アプロチニン10^<-5>Mにより抑制され、至適pHは6.5であった。要約すると、犬心筋のキニン産生酵素はテカプシンDではなく、組織カリクレイン様酵素であった。更に、この酵素はAngI変換能を有することにより、キニンのみならずAngIIをも産生するキニン・テンシン系酵素の一員で、冠血流調節や心筋代謝に関与すると考えられた。
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