研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)感染症には無症候性キャリア・急性肝炎から肝硬変・肝細胞癌まで多様な病態が存在する。本研究は宿主免疫能のHCV感染症に及ぼす影響を明らかにするために企画された。小児C型肝炎32例を免疫能正常群14例(外科手術5例及び現在基礎疾患のない症例9例)と免疫能低下群18例(悪性腫瘍14例、免疫不全症3例、骨髄移植後再生不良性貧血1例)に分けて比較検討し、以下の知見を得た。正常群では輸血後3か月以内に肝炎を発症し、低下群では半数以上の症例で輸血後6か月以降に肝炎を発症した。急性リンパ性白血病の1例では輸血してから1年10か月後、抗癌治療終了4か月後からリンパ球数の回復過程に一致してC型肝炎を発症した。C型肝炎では、B型肝炎と同様に、宿主免疫能が肝炎発症に関与する場合があると推測された。一方、commin variable immunodeficiencyに合併したC型肝炎では血清内のHCV-RNA量が著しく増加しており、発症後5年で非代償性肝硬変に進行し、肝不全により死亡した。本邦小児C型肝炎の死亡例は他に報告がなく、この特異な経過には宿主免疫能の低下が関与しているものと推測された。ただし、免疫能正常群と低下群の真で、ALTの推移、血清中のHCV-RNA量、肝組織所見について比較検討すると,いずれの項目も統計的有意差はなかった。HCV genotypeの複合感染は,輸血量の被い低下群の21%で確認された。次に、免疫能低下群では輸血してからHCV抗体が陽転化するまでの期間が長く、またHCV持続感染にもかかわらずHVC特異抗体が再陰転化する症例が高率に見い出された。免疫能低下群における抗体産生能の低下が反映していると推測された。以上から、次の2点が特に重要である。 1)宿主免疫能はC型肝炎の発症や進展に大きな影響を及ぼしている。 2)免疫能低下した患者ではHCV抗体産生が低下しており,HCV感染の診断にあたってはHCV-RNAの検出を併用するなどの注意が必要である。
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